日本人最速を陰で支えるのは元トッププロ! 新井コーチと横山選手の全日本モトクロス奮闘記 Vol.1

全日本チャンピオンに一番近い日本人!?

年間7戦で競われる2025年の全日本モトクロス選手権シリーズは、4月13日(日)に熊本県のHSR九州で開幕。その最高峰クラスでは近年、実力のある外国人ライダーのフル参戦が相次いでおり、2023~2024年はヤマハファクトリーチームに所属するジェイ・ウィルソン選手がシリーズタイトルを獲得している。

昨年、このウィルソン選手から2勝を挙げてシリーズランキング2位を獲得したのが、「Honda Dream Racing LG」から参戦する横山遥希選手だ。チーム名の「LG」は、彼のニックネームである「Little Giant」に由来。身長154cmと小柄だが、その走りはタフでアグレッシブ。加えてこれまでの経歴もダイナミックで、13歳だった2012年から本場アメリカにモトクロス留学し、2017年の最終戦から全日本に参戦して2019~2020年にIA2クラスを連覇すると、2021年からはオーストラリアおよび隣国ニュージーランドでレースを戦ってきた。

2024年、横山選手はそれまでのカワサキから、ホンダにマシンをスイッチ。これと同時に、オーストラリアとニュージーランドの選手権にも継続参戦しつつ全日本最高峰のIA1クラスにも出場し、その初年度で日本人ライダーの最上位となった。

横山遥希選手が頼る新井宏彰氏とは?

現在、日本とオーストラリアでレース活動を続ける横山選手。その全日本参戦時に、ライディングトレーナー(いわゆるアドバイザー)として2024年から帯同するのが新井宏彰氏だ。2007年には、国際A級昇格から6年目にしてIA2クラスのシリーズタイトルを獲得。翌年から全日本最高峰のIA1クラスに参戦を続け、2012年と2016年には年間ランキング2位を獲得するなど、カワサキファクトリーライダーとして大活躍した。2018年にはランキング3位となり、悲願のIA1タイトル獲得に向けて準備を進めていた2019年3月の練習中に負傷。結果的にはこれが原因で、引退レースに出場することもなく現役生活にピリオドを打った。

このため、横山選手が日本に戻ってきてから新井選手がケガを負うまでの期間は1年半ほどしかなかったことになるが、横山選手によればその間に急速な接近と、お互いの信頼を深める濃密な時間があった。

「日本に戻った2017年、僕はカワサキに乗っていて、新井さんから『耐久テストのメンバーに入らないか?』と誘われたのが、深く関わりを持つようになったきっかけ。2018年は、実家のある埼玉県とカワサキの本拠地である兵庫県を、頻繁に往復していました。そしてそのシーズン終わりに、拠点を神戸に移すことを提案されて即断即決。同じカワサキ系のパーク神戸レーシングチームに移籍し、そのシーズンオフは新井さんと一緒にアメリカでトレーニングしたり、関西のコースで一緒に練習したりと、練習パートナーのような存在になっていました」

残念ながら新井氏は2019年のシーズンを戦えなかったが、翌年には横山選手の専属トレーナーとして、普段の練習やトレーニングの段階からサポートに徹し、横山選手のIA2クラス連覇に貢献した。そして、横山選手が再び全日本を走ることになった2024年から、日本でのレースに帯同する専属アドバイザーとして支え続けている。

横山選手と新井アドバイザーの新たな戦いがスタート

2025年4月13日(日)、全日本モトクロス選手権シリーズは熊本県のHSR九州で開幕を迎えた。今季、横山選手が継続参戦する最高峰のIA1クラスには、このクラスのV2チャンピオンとして臨むウィルソン選手に加え、モトクロス世界選手権の出場経験もあるイタリア人ライダーのジュゼッペ・トロペペ選手が参戦。こちらもかなりの実力者で、横山選手がレースに勝ちシリーズタイトルを獲得するためには、昨年に続き今年も、2名の外国人ライダーを打ち負かす必要がある。

このような状況から、決勝は30分+1周の2ヒート(レース)が設定された今季開幕戦に挑んだ横山選手は気合十分……ではあったのだが、本人も認めるように、決勝ヒート1ではそれが少しカタさにつながってしまったようだ。得意のスタートダッシュを決めてホールショットを奪った横山選手だったが、2周目にウィルソン選手の先行されると、翌周には内田篤基選手にもパスされて3番手後退。5周目にはトロペペ選手に抜かれ、その後は前を走る内田選手を僅差でマークするも、パッシングのチャンスを得られずにいた。いつもなら最後まで速さが衰えない横山選手だが、このレースでは終盤にミスも目立ち、トロペペ選手のリタイアにより順位を上げたものの、内田選手を攻略できず3位に終わった。

「せっかくスタートが決まったのに、そこから完全に自分の走りを見失ってしまい、情けない走りをしてしまいました。シーズンオフにやってきたことをしっかり発揮できれば、結果はついてくると思うので、次はしっかり走るだけです」

レース後の表彰式で、横山選手はこのようにコメントした。

プロが支えてくれる安心感、プロに教える難しさ

横山選手にとっては、不本意なレース内容となったヒート1。このようなときこそ、アドバイザーを務める新井氏の出番でもあるわけだが、今回に関しては、とくに細かいアドバイスはなかったようだ。

「そもそも、プロレーサーに教えるというのは、いろんな難しさがあるんです。自分も現役時代にいろんなコーチに師事しましたが、自分の良さが消えてしまうこともありました。だから今、ラインひとつアドバイスするのでも、非常に気を遣っています。『自分ならこうするよな……』と思っても、走るのはあくまで遥希ですから」

自分もトッププロだったからこそ、ライダーが何を求めているかを新井氏は熟知しており、次のレースに臨むライダーを惑わすようなことはしない。それでも、横山選手にとって新井氏の存在は大きく、少しの言葉で大きな収穫があったようだ。

「開幕戦だし、新しい外国人ライダーはいるし、ここはホンダのホームコースでもあるわけで、正直なところヒート1は、自分自身にプレッシャーをかけすぎたと感じています。新井さんから指摘されたのは、『もっと伸び伸び走ってみたら?』というようなこと。この言葉で、あらためて自分自身がカタくなっていたことに気づかされました」

確かな手応えがよみがえってきたヒート2

そして迎えた決勝ヒート2。トロペペ選手が欠場したこのレースで、横山選手はスタート直後から2番手の好位置を確保すると、トップのウィルソン選手を追った。レース序盤、横山選手はウィルソン選手にじわじわと離され、ギャップは9周目の段階で10秒ほどまで拡大。しかしここから横山選手が持ち味を発揮し、周回遅れがいる中でもペースを上げ、13周目には約3.5秒差まで迫った。16周目のラストラップにかけてウィルソン選手もややペースを上げたため、追いつくことはできなかったが、横山選手は2位でゴール。両ヒート総合成績でも、内田選手と同点ながら2位を獲得した。

レース後、横山選手はこのように総括。早くも気持ちを次戦に向けた。

「今大会は、前夜から走行直前まで雨が降り、その後は一気に晴れて路面が乾くという、非常に難しいコンディション。これに自分の走りをマッチさせることができなかったのが敗因だと思います。とはいえ、もちろん勝てなかった悔しさもありますが、両ヒートで表彰台に立ち、総合成績でも2位というのは、これがシーズン開幕戦であることを考えたら、悪くない結果とも思います。まだ6戦あるし、ここからさらにレベルアップして、勝利を目指していきます!」

横山選手のモトクロスジャージに描かれた「39boy(サンキューボーイ)」とともに、カスタムジャパンは横山選手と新井氏の挑戦を全力でサポートしている。シーズンはまだ始まったばかり。皆さんもぜひ、現地観戦や配信視聴で2人に熱い声援を!!

D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2025 第1戦 リザルト

第1戦 HSR九州大会 IA-1クラス TOP10

順位 名前 チーム ポイント
1 JAY WILSON YAMAHA FACTORY RACING TEAM 70
2 横山 遥希 Honda Dream Racing LG 62
3 内田 篤基 Yogibo PIRELLI MOUNTAINRIDERS 62
4 大倉 由揮 Honda Dream Racing Bells 54
5 大城 魁之輔 YAMAHA BLU CRU RACING TEAM YSP浜松 54
6 西條 悠人 Kawasaki PURETECH Racing 50
7 小方 誠 TEAM HAMMER 47
8 能塚 智寛 Team Kawasaki R&D 46
9 大塚 豪太 T.E.SPORT 45
10 神田橋 瞭 Team GANZ with ZEKURA 41

■今後の全日本モトクロス選手権・開催スケジュール

第2戦SUGO大会
2025年4月26日(土)/27日(日) 宮城県・スポーツランドSUGO

第3戦SUGO大会
2025年5月17日(土)/18日(日) 埼玉県・オフロードヴィレッジ